「ガイアの夜明け」でも警告!M&A詐欺から会社を守るために知っておくべきこと

M&A業界の現状と背景
企業買収が活発化した背景とは?
近年、企業買収がこれまで以上に活発化しています。日経新聞(2025年7月10日朝刊)によると、日本企業が買い手となる国内外のM&Aは、2025年1月〜6月で金額ベースで半期として過去最大となる約31兆円を記録しました。レコフデータによると、日本企業が関与したM&Aの公表件数は2021年には4,280件と過去最多を更新し続けています。また、上場企業によるM&A件数も4年連続で増加し、2022年、2023年に続き2024年にはリーマンショック後の最多件数を4年連続で更新しています。
その背景には、事業拡大や新規事業獲得を目的としたM&Aのニーズの高まりが挙げられます。国内市場が縮小する中で、大企業が海外進出を円滑にする手段としてM&Aの活用が広まっており、IN-OUT型M&A(日本企業による海外企業買収)が活発化しています。特に、成長が鈍化している業界では、新たな成長機会を求めて企業買収が戦略的手段として重要視されています。
また、従来は大企業のみで実施されていましたが、現在では中小企業、ベンチャー、個人事業主にもM&Aが普及しています。
中小企業の事業承継問題と買収の急増
日本の多くの中小企業の課題は後継者不足です。中小企業庁によると、2025年までに中小企業の経営者の約64%が70歳を超える見込みであり、その約半数にあたる約127万社が後継者不在という深刻な状況にあります。このうち約60万社が黒字ながらも廃業するリスクがあることも指摘されています。
この課題を解決する手段として、M&A、特に親族ではない第三者に会社を売却する事例が増えています。M&Aは企業の事業継続や成長、事業再編・改革につながる効果が期待されているのです。
日本市場におけるM&A市場のトレンド
近年、日本市場におけるM&Aはますます活気を帯びています。少子高齢化や国内市場の縮小といった市場環境の変化や、後継者不足の影響により、中小企業の経営者は、廃業による経営資源の散逸を回避する手段としてM&Aを通じた事業譲渡を検討するようになっています。
また、デジタル技術の進展により、M&Aマッチングサイトという新しいプラットフォームが登場しました。自分で希望条件を設定して案件を探せるようになり、個人レベルでもM&Aが実施される時代へと変化しました。M&A仲介会社が悪質な買い手企業の情報を共有できる、M&A情報プラットフォームもあります。
ガイアの夜明けでも特集された企業買収に潜むリスク
“詐欺的”手法を用いた不正買収の実例
M&Aが増加する一方で、買収した企業から資金だけを抜き取って失踪する”悪質な会社”が存在するなど、「M&A詐欺」の問題が深刻化しています。
2024年10月4日に放送されたテレビ東京の「ガイアの夜明け」第1134回では、分析機器メーカー「センシュー科学」の事例が取り上げられました。同社は1978年に設立され、研究機関で使用する分析機器を製造・販売していました。しかし、コロナ禍で約1422万円の赤字に、債務は約3億円に膨らみました。社長の山口千秋さんは、妻の介護を機に会社を売却することに。仲介会社「HCフィナンシャル・アドバイザー」を通じて「ルシアンホールディングス」に売却されました。
センシュー科学は、売却前の口座に運転資金など約6000万円を残していましたが、売却の翌日から資金がルシアン側に流出し、結果的に2025年1月に倒産に追い込まれました。
HCフィナンシャル・アドバイザーは、この案件で調査機関を通じた信用調査レポートの確認や決算資料の開示請求など綿密な調査を行ったとしていますが、ルシアンから提供された一部の情報には虚偽が含まれていたことが後に判明しています。
巧妙化する詐欺手口とその対策
近年、M&Aに関連した詐欺の手口は非常に巧妙化しています。企業の財務状況を過大評価したり、虚偽の情報を用いて信頼性を偽装するなど、被害企業が容易に見抜けないケースが増えています。センシュー科学の事例でも、買い手企業であるルシアンホールディングスは、M&A仲介会社に虚偽の情報を提供していました。仲介会社が調査機関を通じた信用調査を行っても不評情報を取得できなかったことから、手口が容易に見抜けないほど巧妙化していることがわかります。
こういったリスクを回避するためには、デューデリジェンス(DD)を徹底することや、専門家のサポートを受けることが不可欠です。また、契約内容の透明性を確保し、不明瞭な条件を残さないことも被害を防ぐための効果的な対策といえます。
買収後に発覚する問題事例
M&Aが成立した後に発覚する問題も少なくありません。センシュー科学の事例では、売却後、約束されていた連帯保証の解除が行われず、結果として、運転資金の流出と相まって倒産に追い込まれました。
HCフィナンシャル・アドバイザーによると、一般的なM&Aプロセスでは、M&A実行前に売主の連帯保証を解除することは困難であるとされています。これは、取引銀行がM&A成立後の買手企業の信用力と合わせて解除の可否を判断するためです。
こうした問題を未然に防ぐためには、M&A後に発生しうるリスクに備えるための事前のリスク管理が不可欠です。特に法務関連のタスクは複雑であるため、問題発生時に備えた法的手段の準備も重要です。
M&A仲介業者の信頼性と課題
M&Aのプロセスにおいて、仲介業者の選択は非常に重要です。近年はM&A支援機関の急増によって、モラルの低い営業や、複雑な契約内容の説明が不足しているといった問題が顕在化しています。
M&A仲介業界では、手数料開示の充実など透明性が求められていますが、企業側も依存し過ぎず、DDを徹底するなど、自ら情報を精査しリスクを把握することが重要です。
成功する企業買収とは?
企業価値の適切な評価が鍵となる理由
M&Aの成功には、対象企業の企業価値評価(バリュエーション)が重要であるとされています。適切なDDを通じて、潜在的なリスクを把握し、適正な価値を評価することが重要です。判断材料としての情報が不足していると、マッチングが進まない要因にもなります。また、M&A後の統合にあたって必要な情報が欠け、PMI(経営統合)がうまくいかない原因にもなります。
財務状況や市場ポテンシャルを細かく分析するためには、公認会計士や弁護士などの専門家による詳細な調査が不可欠です。
PMIの重要性
買収契約が成立した後は、買収先企業と買収元企業の文化や仕組みを統合する「PMI」が重要なフェーズとなります。M&Aは実行しただけでは、シナジー(相乗効果)は生まれません。PMIを通じて両社の強みを融合し、新たな価値を創出することが必要です。
M&Aは異なる会社同士の統合であるため、企業風土や方針が異なるケースがほとんどです。そのため、組織上の軋轢や衝突、人材流出を防ぐ必要があります。PMIの実施項目には、経営体制・組織の統合や制度(人事、総務、法務)の統合が含まれます。
特に文化統合は最も困難な課題の一つとされています。PMIを成功させるためには、買収された会社の従業員とのコミュニケーションを徹底し、不安や懸念を解消して理解を得ることが非常に重要です。
また、PMIは平均約1年程度と長期的な取り組みになります。経営権の移転手続き後に行う「統合計画(ランディングプラン)」や「100日プラン」を作成し、具体的な目標やKPIを定めて計画的に進めることがポイントです。
透明性を確保するための交渉と契約形成
M&Aの成功のためには、透明性を確保した交渉と契約形成が不可欠です。センシュー科学の事例のように、不明瞭な取り決めや不完全な契約が、後に大きなトラブルを引き起こす可能性があります。そのため、買収前のDDを徹底し、不正リスクや契約条項の抜け漏れを防ぐことが求められます。
また、専門的な知識を持つ弁護士や会計士の支援を得て、法的リスクを排除しながら、公平で双方にメリットのある契約を作成することが成功のカギとなります。
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