M&A業界の概要

主な職種とその業務内容

M&A業界は、企業の合併や買収を通じて経営課題の解決や成長戦略の実現を支援する専門領域です。近年は特に、経営者の高齢化による後継者不在問題が深刻化しており、事業承継の手段としてM&Aへの注目が高まっています。

M&A業界にはさまざまな職種があります。代表的なものにはM&Aアドバイザーやコンサルタント、FA（ファイナンシャル・アドバイザー）、士業等専門家（公認会計士、税理士、弁護士）などが存在します。デューデリジェンス（企業監査）は公認会計士や税理士、法務は弁護士が専門家として担います。

求められるスキルと知識

M&A業界で活躍するためには、財務分析スキル、交渉力、戦略的思考が必要です。特に、財務に関する知識は重要で、貸借対照表やキャッシュフロー計算書を深く理解し、クライアントに価値ある提案を行う能力が求められます。

また、コミュニケーションスキルも欠かせません。クライアントとの信頼関係や他部門との調整力は成約率を大きく左右します。M&Aには売り手、買い手の当事者だけでなく、士業の専門家や金融機関など、様々なステークホルダーが存在します。こうした複数のステークホルダーと連携して進めるため、的確な情報伝達と調整が必要です。

さらに、グローバルな取引が増えている現在では、英語力や多文化理解も重要視されています。

M&A業界の残業時間の実態

平均残業時間とその背景

M&A業界では、残業が日常的に発生すると言われており、その残業時間は月80～100時間に及ぶケースもあるとされています。その理由の一つとして、案件ごとに応じて高い専門性と迅速な対応が求められることが挙げられます。

M&A業務は専門性が高く、財務データ分析（財務DDや企業価値評価）や顧客との密なコミュニケーション（信頼関係構築、交渉）といった多岐にわたる業務に時間を要します。M&Aのプロセスは複雑で期間も長くなりがちで、予期せぬ問題が発生することも少なくありません。こうした背景から、スケジュールが過密になりやすく、突発的な業務も多発する傾向にあります。

繁忙期の勤務状況

M&A業界は業務量に波があり、繁忙期には残業時間が200時間を超えることもあります。特に四半期の締めや、案件のクロージングが近づく時期には、タイトなスケジュールをこなさなければならず、夜遅くまで業務に追われることが珍しくありません。

M&A業界は自己裁量で労働時間を調整できる側面があるため、スケジュール管理ができる社員は休みを取得できる一方、甘い社員は休みが取りにくいという実態があります。また、案件に取り組んでいる最中は常に気が抜けないため、想像以上に体力・精神力を要する仕事です。

一方で、M&A業界は成果報酬型の給与体系が一般的であり、案件が成立すれば高額のインセンティブを得られる仕組みです。案件を成功させることは大きな達成感につながり、企業のオーナーやその家族に感謝される機会も多くなります。そうした大きなやりがいを感じられることが魅力の一つと言えます。

企業や部署による違い

M&A業界での残業時間は企業や部署によって差があります。大手の上場企業や有名M&Aファームでは、プロジェクトごとの目標達成に対するプレッシャーが大きいため、長時間労働に繋がりやすいと言われています。一方で、中小規模の企業や特定の部署では業務範囲が限定されているため、残業時間を抑えられる場合もあります。

また、働き方改革に取り組む企業が増えており、リモートワークや業務のデジタル化を進めることで、残業時間の削減が進んでいるケースもあります。

報酬と働きがい

高い年収水準とインセンティブ制度

M&A業界は、専門職の中でも高い報酬水準が設定されており、年収水準は他業界と比べても突出して高い水準にあります。若手でも成果次第で早期に収入を伸ばせる環境であり、20代後半でも年収1,000万円を超えるケースは少なくありません。

M&A業界では、案件の成約に応じて報酬が支払われる「成果報酬型」の給与体系が一般的です。報酬の多くは成功報酬として支給され、案件が成立すれば一度に高額のインセンティブを得られる仕組みになっており、インセンティブが年収の大部分を占めるケースもあります。

例えば、成約手数料が5,000万円の案件では、1,000万円以上のインセンティブを得られるケースも少なくありません。このような成果報酬型のシステムが、ハードワークを支える大きなモチベーションの一つとなっています。

キャリアパスと成長機会

M&A業界では、若手から数億円〜数十億円規模の案件を担当する機会があり、実力主義・成果主義により年齢・職歴に関係なく、結果を出した人が高く評価される世界です。成果を残せば30代でも部長や執行役員になれるなど、自身の活躍次第で早期に昇進できる可能性もあります。

また、M&A業界では、財務・法務・税務・企業価値評価など、幅広い専門知識を実践的に学ぶことができます。交渉やプレゼンテーションを通じてコミュニケーション能力も鍛えられ、分析力や戦略的思考力が自然と磨かれます。これらの専門性と実務スキルを兼ね備えることで、他業界でも通用する汎用的なビジネス力を身につけられます。

人気の理由は高年収・やりがい・成長機会

M&A業界は「高年収」「やりがい」「成長機会」といった要素が揃っており、激務であるにもかかわらず多くの求職者にとって人気の業界です。特に、クライアント企業の重要な成長戦略を支える役割を担うため、その社会的意義の高さに誇りを感じる人も少なくありません。また、少子高齢化や事業承継の増加に伴い市場が拡大しており、今後も需要が高まる業界として長期的なキャリアの構築も期待できます。

企業によっては働き方改革に取り組み、長時間労働の改善に努めているケースが増えています。例えば、リモートワークの導入やAI・デジタルツールの活用による業務効率の向上が進められています。一部の企業では残業時間の見直しが行われており、案件の繁忙期を除けば比較的自由な働き方を実現しているケースもあります。ワークライフバランス向上のための工夫が進んでいる点も注目されます。

M&A業界で働くうえでの対策・心構え

ストレス管理

M&A業界では、案件のタイムラインに合わせてタイトなスケジュールが組まれることが多く、長時間労働が発生しやすい傾向にあります。特に、交渉や契約直前のフェーズでは緊急対応が求められるため、残業時間が大幅に増加することもあります。このような長時間労働は、肉体的な疲労のみならず、ストレスやモチベーションの低下といった精神的な影響を及ぼすケースもあります。

そのため、働き続ける上では、効果的なストレス管理が重要になります。適度な運動や健康的な食生活を心がけたり、仕事とプライベートの切り替えを意識したり、同僚や家族とのコミュニケーションを大事にするなどの工夫が求められます。近年では、企業側もメンタルヘルスのサポート体制を整備しており、専門家との相談窓口を設置しているところも増えています。

働き方改革の取り組み

M&A業界では、働き方改革の一環として、残業削減や労働環境の向上が進められています。具体的には、リモートワークの導入やデジタルツールの活用による業務効率化が挙げられます。また、AIや自動化技術の導入により一部の煩雑な作業が簡略化され、従業員の負担を軽減する取り組みも見られます。一部企業では、社員の健康管理や休暇取得を推奨する仕組みを導入しているため、全体として労働環境の改善が期待されています。

こうした制度を活用しながら効率的に業務を行うことで、生産性の向上やワークライフバランスの改善などが期待できます。

活躍するための心構え

M&A業界で活躍するためには、柔軟な適応力と高い自己管理能力が必要です。特に、長時間労働が避けられない状況でも、自身の体調や感情をコントロールしつつ目の前のタスクに集中できる人材が求められます。さらに、この業界では成長意欲が評価されやすいので、常に新しい知識やスキルを学ぶ積極性を持つことが成功への鍵となります。