株式の贈与税とは?知らないと損する計算方法と節税テクニック

株式贈与の基本知識
株式贈与とは何か?定義と仕組み
株式贈与とは、保有している株式を無償で他者に譲渡する行為を指します。「贈与」は、ある人が自己の財産を無償で相手方に与え、相手方がこれを受諾することで効力を発する法律行為であり、民法第549条で定められています。この行為により、株式の所有権は受贈者(もらった人)の資産となり、贈与者の財産から除外されます。
特に、事業承継の手段として、株式の贈与が利用されることがあります。非上場株式の贈与は、主に事業承継を目的として行われることが一般的です。
株式と現金の贈与の違い
株式贈与と現金の贈与にはいくつかの違いがあります。現金を贈与する場合、その価値は明確ですが、株式の場合は評価額を算出する手続きが必要です。この評価は、上場株式か非上場株式かによって異なり、特に非上場株式では専門的な評価基準が適用されます。また、現金贈与は資産の直接的な移転ですが、株式贈与では、資産移転だけでなく会社の経営権や意思決定権が受贈者に移ることもあります。
贈与税が発生する条件とその背景
贈与税は、個人から贈与により財産を取得したときにかかる税金です。株式贈与の場合、贈与された株式の評価額が基準となり、受贈者がその価値に応じた贈与税を負担します。贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの課税方法があり、暦年課税では年間110万円までの贈与には基礎控除が適用されるため、この金額を超えない場合は非課税となります。
また、「相続時精算課税制度」や「事業承継税制」などの控除制度を活用することで、贈与税の負担を軽減することも可能です。これらの制度には一定の条件があるため、事前に確認することが重要です。
家族間における株式移転の特徴
家族間で株式を移転するケースでは、贈与税のほかに相続や売買の方法も検討されることがあります。特に親から子への株式贈与は、事業承継の目的で行われることが多いです。
家族間の贈与では、信頼関係を背景に贈与契約を締結できますが、後々のトラブルを避けるためにも契約書を作成し、内容を明確にしておくことが推奨されます。また、贈与時の株式の評価額が適切でない場合、税務上で指摘を受ける可能性があるため、専門家に相談した上で手続きを進めることが大切です。
株式の贈与税の計算方法
贈与税の計算式と適用される税率
贈与税の課税制度には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。
「暦年課税」の計算式は、「課税価格(評価額)-基礎控除額(110万円)」に適用税率を掛け、その後控除額を差し引く形で求めます。税率は、課税価格の区分によって異なる累進税率が適用される仕組みです。具体的には、課税価格が増加するにつれて税率が上昇し、最高税率は55%に達します。
「相続時精算課税」では、累計2,500万円の特別控除があり、この金額を超えた部分には一律20%の贈与税が課税されます。贈与財産は贈与者が死亡した際に相続財産に加算されます。ただし、2024年1月1日以降の贈与からは、「相続時精算課税」においても年間110万円の基礎控除が新たに創設されました。この基礎控除内の贈与では、贈与税が課税されず、贈与税の申告も不要になります。
贈与財産の評価額の算出方法
上場株式の評価額は、以下の4つのうち最も低い価格を採用する仕組みです。
①贈与日の最終価格
②贈与日の属する月の最終価格の平均額
③贈与日の属する月の前月の最終価格の平均額
④贈与日の属する月の前々月の最終価格の平均額
一方、非上場株式の場合、類似業種比準方式や純資産価額方式によって算出されます。これらの評価方法は、企業の財務状況や業種ごとの基準に基づいて決められるため、専門家の助言を受けながら進めることをお勧めします。
非上場株式の評価方法とポイント
非上場株式の評価には、主に「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」が用いられます。
「類似業種比準方式」は、同業種の上場企業の株価をもとに、評価会社の「配当金額」「利益金額」「純資産価額(簿価)」の3つの要素で比準して評価するもので、会社の収益力を反映します。
「純資産価額方式」は、会社の総資産や負債を相続税評価に洗い替え、純資産額(資産から負債を引いた額)を基に算出するものです。これらの評価額は、特に事業承継やM&Aにおいて重要な要因となり、評価方式の選択や妥当性が税務調査で争点となるリスクがあるため、慎重な検討が必要です。また、同族株主以外の株主が取得した場合は配当還元方式が適用される特例もあります。
利用される控除制度の種類と条件
株式贈与における贈与税を抑えるためには、控除制度の活用が鍵となります。
例えば、「事業承継税制(法人版)」は、非上場株式等の贈与税について納税を猶予し、一定の条件で免除される特例です。事業承継時の税負担を大幅に軽減できます。この制度には、納税猶予割合が100%となる「特例措置」が設けられるなど、要件が緩和・拡充されている点が近年の特徴です。ほかにも「暦年贈与」や「相続時精算課税制度」など、制度を組み合わせることで効果的な節税対策が可能となります。
株式贈与における節税テクニック
暦年贈与を活用した税負担の軽減法
「暦年贈与」とは、年間の贈与額が基礎控除額である110万円以内であれば贈与税が発生しないという制度です。多額の贈与を一度に行うのではなく、複数年にわたり少額ずつ株式を贈与することで税負担を軽減することが可能です。例えば、後継者に株式を渡したい場合、毎年基礎控除を最大限に利用して株式を分割して贈与する方法が一般的です。この方法は、家族への贈与に特に有効であり、相続対策としても広く活用されています。
ただし、贈与する株式の評価額を正確に算出することが重要であり、110万円を超える場合は贈与を受けた人が翌年2月1日から3月15日までの間に申告と納税をする必要があります。また、毎年同じ時期に同じ金額を贈与し続けると、「定期贈与」と見なされ、贈与財産の総額に対して贈与税が課税されるリスクがあるため、贈与契約書を毎年作成し、贈与の時期や金額に変化を持たせるなどの工夫が推奨されます。
事業承継税制のメリットと注意点
「事業承継税制(法人版)」は、事業承継時の税負担を大幅に軽減できる制度です。特に「特例措置」が適用される場合、納税猶予割合は100%となり、贈与税の実質的な負担をゼロにできる可能性があります。
しかし、この制度を利用するためには、後継者が事業を承継し、一定期間企業を存続させることや、雇用確保要件(特例措置では承継後5年間平均8割の雇用維持が必要)など、一定の要件を満たす必要があります。適用要件や手続きは複雑であるため、専門家の助言を受けながら計画的に進めることが重要です。
分割贈与による負担の分散策
株式を複数年にわたって少しずつ贈与する「分割贈与」は、贈与税の負担を軽減する有効な方法です。贈与税は累進課税が適用されるため、一度に多額の贈与をすると高い税率が適用される可能性があります。しかし、暦年贈与の年間110万円の基礎控除枠を最大限活用することで、非課税で財産移転を続けることが可能です。
この方法は、非上場株式の贈与(事業承継)において特に有効です。株価が低い時期に贈与することで、贈与税の評価額を抑えることができます。
親族間での贈与と法人格活用の比較
株式の贈与は主に家族や近親者間で行われるケースが多いですが、法人格を活用する方法と比較したとき、それぞれにメリットとデメリットがあります。
親族間で株式を贈与する場合、暦年贈与や事業承継税制などの制度を活用することで贈与税を抑制することができます。また、親族への贈与は、事業承継がスムーズに進むという点でも利点があります。
一方、法人格を活用して株式を譲渡する方法では、M&Aのスキームを設計することで、経営権や資産の移転を効率的に行うことが可能です。ただし、法人格を利用する際には譲渡益課税が発生する場合があるため、専門的な税務知識が必要となります。したがって、どちらを選択するかは事業規模や資産状況に応じて判断する必要があります。
株式贈与の手続きと具体的な流れ
贈与契約書の作成と必要な記載事項
株式贈与を行う際には、贈与契約書を作成することが重要です。贈与契約書は、後に税務署などで贈与の事実を確認する際の証拠となるだけでなく、当事者間でのトラブルを防ぐ役割も果たします。
契約書には、贈与者と受贈者の氏名、住所、贈与の対象となる株式の銘柄や株数、評価額、贈与の日付を明確に記載します。また、贈与が無償で行われることを示す旨も明記する必要があります。贈与は、ある人が自己の財産を無償で相手方に与え、相手方がこれを受諾することで効力を発する法律行為であり、民法第549条で定められています。契約内容が法律に準拠しているかを確認することも忘れないようにしましょう。
また、非上場株式の贈与においては、会社に譲渡承認申請を行う必要があり、契約書の内容で当事者同士の意思を明らかにすることもできます。
税務署への手続きと申告のタイミング
株式贈与を受けた場合、受贈者は贈与税を納める義務があります。贈与税の申告と納税は、贈与により財産を取得した年の翌年2月1日から3月15日までに行わなければなりません。
贈与税の課税は「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、暦年課税では、年間110万円の基礎控除が適用されるため、この金額を超える場合に申告と納税が必要です。非上場株式の贈与の場合、評価額の計算が非常に複雑であるため、贈与税の計算や節税対策について税理士に相談することが推奨されます。
専門家のサポートを受けた場合の流れ
株式贈与は手続きが複雑なため、税理士や弁護士、金融機関の専門家の支援を受けることが推奨されます。専門家に依頼する場合、まず現状の株式評価額や贈与の目的を共有することから始まります。その上で、必要書類の準備や贈与契約書の作成、税務署への申告手続きまでトータルでサポートを受けることが可能です。また、事業承継税制を活用する場合や贈与税の節税対策を講じる場合でも、専門知識が求められるため、早めに相談することでスムーズに手続きを進められるでしょう。
家族間トラブルを回避する対策
株式を特定の相続人に生前贈与すると、遺産分割の際に他の相続人との間に不公平感が生まれ、トラブルになる可能性があります。これを防ぐためには、贈与の経緯を文書にしておくこと、つまり贈与契約書を作成して贈与の意思を明確にすることが大切です。
また、偏った生前贈与は「特別受益」と見なされ、遺留分(法律で保障された最低限の取り分)を侵害する恐れがあるため、誰にどれだけ渡すかをあらかじめ明らかにしておくことが、将来のトラブルを未然に防ぐ体制を整えることにつながります。経営権に関わる株式の贈与や事業承継税制、M&Aなどを活用する際も、関係者間で意見を調整し、円満な相続を実現することがポイントです。
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