事業承継に悩む中小企業経営者必見!M&A入門ガイド

事業承継問題の解決策としてのM&A
事業承継問題の現状と課題
経営者の高齢化は年々進展しており、事業承継への関心が高まっています。中小企業庁によると、2025年までに平均引退年齢(70歳)を超える経営者は約245万人と見込まれています。また、後継者不足を理由にした廃業は増加傾向にあり、2020年の休廃業・解散件数は過去最多となりました。こうした廃業は、従業員の雇用喪失や取引断絶によるサプライチェーンへの支障、地域経済への悪影響が生じるおそれがあると指摘されています。
M&Aは、後継者不在への対応に加えて、生産性向上や創業促進の観点からも推進されており、企業の成長戦略を実現する手段として位置付けられています。これまでは、M&Aに対する経営者の根強い抵抗感や「後ろめたい」といった心理的な抵抗感が存在することが、M&Aの検討を遅らせる要因となってきました。しかし、近年は単なる事業承継の手段に留まらず、企業戦略の実現手段、すなわち成長戦略として捉えられ始めています。
M&Aがもたらすメリットと効果
M&Aは事業承継の手段であるだけではなく、設備投資や研究開発等と並ぶ、中小企業の成長・拡大を加速させる手段です。M&Aを実施した中小企業は、実施していない企業と比べて、売上高、経常利益、労働生産性を向上させています。
売り手側のM&Aの目的としては、「従業員の雇用の維持」が最も多く挙げられています。事業を第三者に譲渡して存続させることにより、従業員の職場を残し、雇用の受け皿を守ることができるとされています。
買い手側のM&Aの目的としては、「売上・市場シェアの拡大」や「新事業展開・異業種への参入」が含まれます。他社の顧客基盤やブランド力などの経営資源を取り込むことで、自社だけでは難しかった成長・拡大を短期間で目指すことができます。
M&Aの基本プロセス
①初期準備と計画策定
M&Aを成功させるためには、初期準備と計画策定が非常に重要です。
まず、譲り渡し側は、M&Aに先立つ「見える化」として、経営状況・経営課題等の現状把握を行う必要があります。自らの事業の価値を把握するためには、財務状況を把握し、バリュエーション(企業価値評価)を実施します。
譲り渡し側経営者は、引退後のビジョンを含む希望条件を事前によく考えておく必要があります。M&Aはあくまで経営課題を解決するための手段です。M&Aの目的や達成すべき目標を具体的な金額や数値で設定することが重要です。目的を明確化し、優先順位を付しておくことは、円滑な交渉の実現にも資するとされます。
計画を進める際には、中小企業庁が公表している『中小M&Aガイドライン』を参考にすると良いでしょう。後継者不在の中小企業がM&Aを検討する際の手引きとして策定されており、M&Aの基本的なプロセスが図解とともに示されています。
M&Aでは、財務・法務・税務など高度な専門知識が必要となる局面が多くあります。M&Aの実行にあたっては、支援機関による助言の下で事前準備を行うことが望ましいとされています。M&A専門業者や弁護士、公認会計士、税理士等の支援機関に早期に相談しましょう。
②対象企業(買い手・売り手)の選定
M&Aの成否を左右する大きな要素の一つは、適切なマッチング(相手企業探し)です。
中小企業の場合、自社の規模や業種に適した企業を選定することが重要です。これには慎重な調査が求められます。
仲介者・FAは、依頼者の希望やM&A実施後のシナジーも踏まえて、候補先の探索、選定、紹介を行います。譲り受け側は、希望する業種や所在地、事業規模、買収価額等の条件を明確にしておく必要があります。
買い手側は、シナジー効果を期待できるよう、自社の強みを補完し合える企業を探すことがポイントです。
売り手側は、従業員の雇用継続を重視し、事業を存続させてくれる企業を選ぶことが重要です。
信頼できる候補企業を効率的に見つけるには、仲介者・FAによる支援、M&Aプラットフォームへの登録・活用、そして金融機関や会計事務所等のネットワークを活用することがおすすめです。
③デューデリジェンス(精査)
デューディリジェンス(DD)は、M&A実行前に相手企業について詳細な調査・分析を行うためのものです。主に譲り受け側がFAや士業等専門家(公認会計士、税理士、弁護士など)に依頼して実施されます。
DDは一般的に、財務DD、法務DD、事業DD、税務DDなど、多様な調査から構成されます。これにより、取引価格の妥当性や、対象会社に潜在的なリスク・問題がないかを判断することができます。
客観的資料に基づいた検討を行うことで、最終契約に定める内容・条件を調整し、M&A成立後のトラブルを防止できます。譲り渡し側が負の情報を隠し、DDで発覚した場合、取引破談や賠償問題に発展する可能性があるため、徹底した精査が重要です。
④契約交渉と合意形成
交渉により概ね条件合意に達した場合、基本合意を締結し、DDを経て最終的な再交渉を行い、最終契約(売買契約書)を締結します。
最終契約で取り決める主要な内容には、譲渡対価(譲渡価格)、支払時期・方法、経営者・役職員の処遇(従業員の雇用継続の努力義務等)、競業避止義務、クロージングの前提条件、契約の解除事由などが含まれます。
中小M&Aの交渉においては、譲り渡し側経営者が従業員の処遇や経営者保証の扱いを懸念することが多くあります。これらは経営者や従業員の今後に直接影響する重要な要素であるため、慎重に進める必要があります。
交渉の過程で基本合意書や、最終段階で株式譲渡契約書や事業譲渡契約書などの最終契約書を締結することで、合意内容を明確に文書化します。これらの契約書作成や法的なチェックは、弁護士の専門的な業務です。特に最終契約の締結においては、M&Aの知見と実務経験を有する弁護士の関与が望ましいです。
中小企業特有の課題とその解決策
従業員や顧客への影響への配慮
M&Aにおいて、中小企業が直面する最も重要な課題の一つが、従業員や顧客への影響です。
従業員にとって、経営者や会社の環境が変わることは大きな不安要素です。譲渡側の従業員がM&Aに対して「会社がどのように変化するのか?」「自分たちの業務はどうなるのか?」「給料が下げられる」といった漠然とした不安やネガティブな心情を抱くこともあります。
特に、中小企業では従業員との距離が近いため、この不安が業務パフォーマンスや士気に直接影響を与えることも珍しくありません。顧客にとっても、M&Aによるサービスの質や信頼性が変わるのではないかという懸念が生じます。
これらの問題に対応するためには、早期から従業員や顧客との透明性あるコミュニケーションを心掛け、M&Aの意図やメリットを説明することが重要です。
M&Aの事実を発表する際には、譲り受け側(買い手)の社長や担当者も同席し、従業員に直接今後の方針や雇用維持について丁寧に説明するなど、安心して働けるよう十分なフォローを行いましょう。M&A成立前に従業員への情報開示や個別面談を実施し、信頼関係を構築することで退職者をゼロに抑えた事例も存在します。
また、M&A完了後には、譲り受け側による円滑な事業の引継ぎに向けて、誠実に対応する必要があります。譲り渡し側経営者の事業に対する愛着にも留意しつつ、円滑な引継ぎが可能となるよう心情面を含めてサポートすることが重要です。PMI(M&A後の統合プロセス)に早期から着手した企業ほど、期待以上の成果を得られる傾向があるという調査結果もあります。
財務健全性とリスク対応
中小企業がM&Aを実施する際、財務面における準備不足が深刻な課題となる場合があります。売り手企業の場合、買い手が財務状況を精査するデューデリジェンスのプロセスで問題が発覚すると、交渉が頓挫する可能性があります。また、買い手企業にとっても、M&A後に予測外の債務や経営リスクが浮上することが懸念されます。
このようなリスクを回避するためには、事前に財務健全性を確認し、改善が必要な部分について早期に対処することが重要です。さらに、M&Aガイドに沿った専門的アドバイスを受けながら、潜在的な経営リスクを洗い出し、適切な対応計画を策定することが解決策として有効です。
情報漏洩リスク
M&Aの交渉時には、売り手と買い手がさまざまな情報を共有しますが、このプロセスで情報漏洩のリスクが高まります。
情報漏洩が発生した場合、M&Aが破談に終わるだけでなく、風評による取引先への悪影響やインサイダー取引など、企業経営に深刻なダメージを及ぼしかねません。情報が伝わった後にM&Aが頓挫すると、取引先の喪失や従業員の退職等、従前の事業活動の継続に支障を来すような事態が生じるおそれもあります。
M&Aアドバイザーに業務を依頼する場合は、会社の存続に係る情報を開示することになるため、秘密保持に関する契約を結ぶことが必要とされています。交渉過程の早い段階で、譲り渡し側・譲り受け側間で秘密保持契約(NDA)を締結することが重要です。また、社内でM&Aに関与するメンバーは必要最小限に限定し、極秘裏に進行することが基本です。重要資料には閲覧権限や透かしを設定するなどの工夫も有効とされています。事前にM&A専門家の助けを借りて情報共有の範囲や手順を明確にすることも有効です。
適切なアドバイザー選び
M&Aの成功には、知識・スキル、倫理観が高いアドバイザーが不可欠です。譲り渡し側経営者がまず行うべきことは、M&A専門業者や弁護士、公認会計士、税理士等の支援機関に早期に相談することです。
仲介者・アドバイザーの選択にあたっては、M&A取引の実績、業務範囲や業務内容、報酬体系、利用者の声等をホームページや担当者から確認し、比較検討して決定することが大切です。近年はM&A専門業者の新規参入が増加しており、支援経験や知見の乏しい人材が支援に携わるケースもあります。
アドバイザーや仲介業者を選ぶ際は、契約内容や手数料が分かりにくくないか、支援内容は十分かどうかを見極めて選択しましょう。
中小企業のための成功するM&Aのポイント
コミュニケーションと信頼構築の重要性
M&Aを成功させるためには、譲り渡し側は、譲り受け側および支援機関と信頼関係を築いた上で、譲り受け側の意向に誠実に対応することが重要です。負の部分(簿外債務、係争等)も含めて可能な限り正確に開示しておきましょう。都合の悪いことを隠すと取引破談や賠償問題に発展する可能性があります。
また、中小企業では経営者同士の信頼が取引の成否に大きく影響を与えるため、初期段階から誠実なコミュニケーションを心がけることが必要です。特に、譲り受け側の経営理念や人間性などを直接確認するためのトップ面談は、その後の円滑な交渉に非常に重要な機会です。誠意ある態度で臨む必要があります。
適正な企業価値の算出と提示
企業価値の評価額は、M&Aで譲渡額を決める際の目安の一つとして取り扱われます。譲渡企業側の提示希望額が客観的な企業価値とかけ離れて高すぎると、交渉が難航するケースが多く見られます。
中小M&Aでは、「簿価純資産法」、「時価純資産法」「類似会社比較法(マルチプル法)」3つのアプローチに基づいてバリュエーションを実施します。バリュエーションは専門的なため、公認会計士など専門家の支援を受けることがおすすめです。
また、『中小M&Aガイドライン』のような情報源を参考にすることで、市場動向や類似事例を把握しやすくなります。
PMIの成功要因
M&Aの成立は「スタートライン」に過ぎません。その後のPMI(M&A後の経営統合)を実現させることが重要です。
PMIでは、新しい経営体制の構築や、企業文化・経営理念が異なる2つの企業を統合させることが難しいとされています。譲渡側の組織と人への理解を深めるために組織アンケートを実施したり、譲渡側の組織の風土や文化を尊重したり、従業員の心情に配慮しながら統合を推進しましょう。事前に統合方針書の作成やアクションプランの整備を含む計画策定をしておくことが重要です。
PMIに失敗すると、従業員のモチベーション低下や組織の分裂などのリスクが生じるため、慎重な管理が求められます。
記事の新規作成・修正依頼はこちらよりお願いします。





