2024年日本企業のM&A件数が過去最多に!その背景と未来の展望を探る

2024年のM&Aの現状
M&A件数の推移と記録更新までの背景
2024年の日本国内のM&A件数は4700件に達し、前年比17.1%の増加を記録しました。この数字は過去最多となり、国内企業によるM&A活動が活発化していることを裏付けています。特に注目すべきは、後継者不足や事業承継を目的とした中小企業でのM&Aが増加傾向である点です。中小企業庁によると、2025年までに約245万人の経営者が引退予定年齢に達する見込みで、そのうち127万人が後継者不在の状態にあると言われています。この状況が事業引き継ぎ型のM&A件数を押し上げる大きな要因となっています。
また、国内企業同士によるIN-INのM&A件数は3702件で、前年比20.5%増加となりました。一方、国内企業が海外企業を買収するIN-OUTの案件は665件(前年比0.6%増)、海外企業が日本企業を買収するOUT-INの案件は333件(前年比17.7%増)となりました。全体としてのM&Aの総金額も19.6兆円に達し、前年から8.0%増加しており、日本市場での取引規模が引き続き拡大していることがわかります。
主要産業別のM&A件数の傾向
業界別に見ると、中小企業が多い製造業、小売業、飲食業のM&Aが特に活発です。これらの業界では、後継者不足の深刻化や新規参入者の増加が背景となっており、事業承継を目的としたM&Aが増えています。また、ITやデジタル関連産業では、成長戦略としてスタートアップとの協業や買収を行う企業が多く見られます。
さらに、農林水産業や建設業が盛んな地方、特に北海道では、地域の特性を活かしたM&Aが増加傾向にあります。農林水産業では、輸出市場での競争力強化を目的とした案件が目立ち、建設業では老朽化が進む社会インフラの更新需要に対応する企業同士の連携が進んでいます。このように、主要産業ごとに異なる動機や背景に基づいてM&Aの動きが加速しています。
グローバルM&A市場との比較
日本国内でのM&A件数が増加基調にある一方、2024年のグローバルM&A市場では減少傾向が見られます。全世界のM&A件数は50223件と、2023年の58254件を下回りました。この背景には、世界的な金利上昇や景気の不透明感が影響しており、特に新興市場での取引減が目立ちます。
日本企業のクロスボーダーM&Aも同様に減少傾向で、2024年には698件の取引にとどまりました。しかし、国内案件の増加により全体の件数は増加傾向にあり、日本市場の独自性が浮き彫りになっています。他国と比較すると、日本のM&A市場は国内経済や地域密着型の動機が強く、海外市場の動向とは異なる動きを見せています。
日本国内の地域別M&A動向
地域別にみると、東京を中心とする首都圏が圧倒的に多くのM&A案件を抱えています。首都圏では、大企業やスタートアップ企業による戦略的M&Aが多く見られ、特にIT業界やサービス業で活発です。一方で、地方都市に目を向けると、北海道や九州地域では地域経済を支える中小企業の事業承継型のM&Aが増えています。
中でも北海道は、農林水産業での事業再編や効率化の取り組みが進んでおり、農業関連企業同士の統合や協力が進んでいます。また、観光業が盛んな地域では、新型コロナウイルスからの回復を目指したM&Aが増えており、地域活性化の一環として注目されています。このような地域特性を反映した動きは、地方創生という観点からも注目されるべきトピックです。
日本企業によるM&A増加の背景
後継者不足問題と事業承継M&Aの増加
日本国内でのM&A件数が増加している大きな要因の一つに、後継者不足問題があります。中小企業庁の調査によると、2025年までに中小企業や小規模事業者の経営者の約64%が70歳を超える引退予定年齢に達するとされており、そのうち約半数が後継者不在のままです。この現状により、事業承継を目的とするM&Aが活発化しています。特に、黒字経営でありながら後継者が見つからず廃業に至るリスクを回避するため、多くの経営者がM&Aを選択する傾向にあります。
また、事業承継M&Aは単なる経営権の引き継ぎにとどまらず、地域経済や雇用の維持にも重要な役割を果たしています。特に中小企業が多い地方では、事業承継M&Aによって地域産業の活性化が図られる例も増えており、これが全体的なM&A件数の増加に繋がっています。
成長を目指した戦略的M&Aの活用
M&Aは、後継者問題の解決手段としてだけでなく、事業の成長や競争力強化を目的とした「戦略的M&A」としても広く活用されています。日本企業が直面する国内市場の縮小や労働人口の減少といった課題を克服するためには、新たな市場への参入や技術獲得、事業分野の多角化が必要不可欠です。これらを効率的に実現する手段として、多くの企業がM&Aを選んでいます。
2024年に記録されたM&A件数の内訳を見ても、業界再編やシナジー効果を狙った大型取引が増加していることが分かります。特にデジタルトランスフォーメーション(DX)や環境分野で成長を目指す企業が、関連技術やノウハウを保有する企業を買収する動きが顕著です。
TOB活用事例とその影響
株式市場を通じた企業買収方法の一つであるTOB(公開買付け)の活用も、近年増加している傾向にあります。2024年には、将来の成長戦略を見据えた公開買付けによるM&A取引が日本企業間で複数行われました。特に、大手企業が中小規模の企業を取り込むことで新事業の展開や市場拡大を図るケースが目立っています。
TOBは企業間の友好的な提携だけではなく、時には経営権の奪取を巡る敵対的な事例としても注目されています。こうした動きは、日本のM&A市場をさらに活発化させる一方で、株式市場にも大きな影響を及ぼしています。
金融環境の影響と資金調達の動向
M&A件数の増加には、金融環境や資金調達のしやすさも重要な要因です。近年、日本国内では低金利政策が続いており、企業がM&Aのための資金を調達しやすい状況が続いています。また、大企業だけでなく中小企業においても、金融機関からの融資や投資ファンドの活用が格段に増加しています。
特に、地方銀行や信用金庫が積極的にM&A支援に乗り出していることで、中小企業のM&A案件が一層進みやすくなっています。さらに、M&A専門企業や仲介企業の増加も市場の活性化に寄与しており、2024年には過去最多のM&A件数を記録する結果となりました。
企業間での主なM&A成功事例
中小企業を対象とした事業承継事例
日本国内では後継者不足を背景に中小企業を対象とした事業承継M&Aが増加しています。特に2024年は、中小企業のM&A件数が大きく伸び、全体の約8割を占めるIN-INの国内案件の多くが事業承継目的で行われました。例えば、地方の老舗製造業が同業他社に買収されることで持続可能な事業運営を実現したケースが注目されています。このような事例は雇用の維持だけでなく、地域経済の安定にも寄与しており、今後も継続的に需要が高まると予測されています。
日本企業による海外企業買収事例
2024年の日本企業による海外企業へのM&A(IN-OUT案件)は665件と前年比微増となりましたが、戦略的買収による成功事例がいくつか見られました。特に先進技術を持つ欧米企業や新興国の市場に参入するための案件が目立ちました。その一例として、大手医療機器メーカーが北米の競合他社を買収し、製品ラインアップの拡充とシェア拡大を狙った案件があります。このような動きは日本企業が国内市場の縮小を克服し、グローバル市場で競争力を高める戦略として有効に作用しています。
スタートアップと大企業の協業型M&A
2024年には、成長著しいスタートアップ企業と大企業による協業型のM&Aも増加しました。こうした案件では、大企業がスタートアップの革新的な技術や事業モデルを取り込み、自社の成長を加速させることが目的となるケースが多いです。特に、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)分野でのスタートアップ買収が活発化しており、国内市場におけるM&A件数の拡大に寄与しました。代表的な事例として、大手IT企業がスタートアップを買収し、次世代クラウドサービスの開発を推進した案件が挙げられます。
業界別にみる特徴的なM&A事例
業界別では、製造業やIT業界でのM&Aが特に活発でした。製造業では老朽化する設備投資へのコスト削減や技術継承を目的とする案件が多く見られました。一方、IT業界では人材確保やAI技術の取得を目的にしたものが注目されています。また、医療・ヘルスケア分野では、地域密着型の病院同士の統合や、製薬会社による研究拠点の買収が進んでいます。これらの事例は、それぞれの業界固有の課題に対応するための戦略として位置づけられており、M&Aが企業成長の手段として幅広く活用されていることを示しています。
2025年以降のM&A市場の展望
中小企業におけるM&A促進施策の影響
2025年以降、中小企業でのM&Aがさらに活発化すると予想されています。その背景には、国や自治体による「事業承継型M&A」の促進施策があります。特に、中小企業庁が推進する支援プログラムや税制優遇措置が、後継者不足に悩む企業を支える重要な要素となっています。現在、日本では後継者不在の中小企業の廃業が経済全体に大きなリスクを与えるとされていますが、M&A件数が増加することで、廃業リスクの軽減だけでなく、経済成長に寄与することが期待されています。また、地域ごとの仲介や専門機関の支援体制も整備されており、特に地方でのM&Aが増加する可能性が高いとされています。
クロスボーダーM&Aの拡大可能性
日本企業が海外市場へ積極的に進出する流れは続いており、クロスボーダーM&Aが拡大する可能性があります。近年、国内市場の縮小や少子高齢化に伴い、企業が成長を維持するにはグローバル市場をターゲットにせざるを得ない状況となっています。2024年に若干減少したクロスボーダー案件ですが、2025年以降は、新興国市場での需要増加や円安による投資チャンスの広がりにより再び増加に転じる見込みです。また、アジアを中心とした成長市場に対して、日本の技術やサービスが適合することで、多くの高付加価値型M&Aが行われると考えられます。
業界再編の加速と新たな方向性
業界再編も、日本のM&A市場における大きなトレンドとして2025年以降加速すると予想されます。特に、エネルギー、ヘルスケア、IT分野などでの再編が進む可能性が高いと言えます。再生可能エネルギーへのシフトや、医療・介護分野での需要増加はもちろん、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展が、これらの業界において新たなM&Aの機会を生み出しています。また、中小企業だけでなく、大企業間でも競争力強化を目的とした戦略的な提携や統合が増える見込みです。このような再編は、市場全体の効率化と経済成長に寄与することが期待されています。
デジタル化によるM&Aプロセスの進化
デジタル化の波は、M&Aプロセスそのものにも大きな影響を与えると考えられています。デューデリジェンス(DD)や契約交渉など、これまで紙ベースで進められていたプロセスが、デジタルツールを使った効率的な手法に移行しています。これにより、M&A件数の増加に対応する形で、迅速かつ正確な取引が可能になっています。また、AIを活用した企業評価やシナジー分析、ブロックチェーンを利用した契約管理など、新たな技術による信頼性と効率性の向上が期待されています。2025年以降も、こうしたデジタル技術の進化が、日本のM&A市場をさらに活発化させる原動力になるでしょう。
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